「愛情がないんじゃない?」ですませるのは悲しい
|特定の人に関する話じゃなく、一般論として。こういう考えに陥っちゃう人っていっぱいいると思うんだ。
たとえば、とあるWebサービスを提供している会社で。
「最近暗いじゃないか。どうしたの?」
「はぁ…。なんかこう、最近仕事が…」
「たいへんなのかい?」
「それも多少はあるんですが、
毎日おなじことの繰り返しで、クオリティも効率も上がらず、
なにやってるんだかなぁ…ってイヤになってきちゃったんです」
「えー。そうなの?」
「はい…」
「うーん。
それって、自分ところのサービスに愛情がなくなった ってことじゃん? 辞めたほうがいいかもよ」
…こういうの、ぼくはいろんな会社で何回も見てる。ひとによって感じることは違うと思うけど、どうも確実にこの、
愛情がもてないなんて終わってる
って思考パターンの人はいるんだよね。いっぱい。善し悪しと無関係に。
ちょっとズレるんだけど、ぼくがむかしベンチャーインキュベーション施設のコンサルタントをやってたころの話。たまたま、ある講師が事業計画書の書き方を実習してたのを覗いてたんだ。
分野がITに限られていないこともあって当然だけど、初年度にひとを2,3人雇ったりするとぜんぜん収支が成り立たない。勢い、経営者だけで回してやっと公的支援が受けられるような計画書になってしまう。一日に経営者が2人日働くイメージ。
改めて講師が聞く。
「どうです?
ここまで働かないとだめという結果を見て、起業するのがよいと思いますか?」
そのクラスは頭のいい人がそろってたんだけれど、みんな「起業すべきじゃない」と声を上げた。講師は首を振ってこう答えた。
「でも、自分の事業へのやる気や 愛情があればなんでもできる というのが起業のいいところなんですよ」
…そうなのかあ? ぼくには納得いかなかった。
愛情に頼んで起業なんかしたら、即刻つぶれるのが目に見えてるじゃないか。愛情があればなんでもできるから、自己資金の足しにするために親族回ってカネ出してもらって、自分は過重労働して、人も雇って…それでいいのかな? どんなに愛情があったって会社はつぶれるし、そうしたら親族には迷惑がかかるし、自分のカラダは壊れるし、雇った人は路頭に迷う。
「愛情があれば」ってカンタンなことばだけど、それだけの責任をともなうわけで。そんなイージーに使っていい単語だとは思えなかった。
話はもどって。Webサービスで愛情云々って件だけど。
そもそも論で「愛情をもって仕事に当たれ」という前提にムリがあると思うんだよね。
だって、ぼくらがインターネットで仕事をはじめた1994年くらいなら、そりゃネットで仕事をしてるのはネットのことが好きに決まってたよ。全員モデムと会話できたしね(うそ)。そういう人は「ネットに触れていればいいやー」って人。
でも今は違うよね。ネットのことキライってわけじゃなくても、比較的ニュートラルな気持ちで業界に入ってきて仕事してる人がほとんど。二進法なんてわかんない人のほうが多い。でも、生きる糧にするために、自分の責任を果たすべくきちんと働いてくれている。
こういう時代に、仕事を自分の恋人かのように愛情をもって接することを要求するのは、それはムリだよ。だって、ほかに恋人がいるんだもの。あるいは息子・娘かもしれない。
要求できるのは、職責と職務上のプロフェッショナリズムをもって働いてもらうことだけ。感情は内心の自由だよね。
立ち返って見て、さいしょのダイアローグで「愛情のない人」がなんて言っているか反芻すると、
…毎日おなじことの繰り返しで、クオリティも効率も上がらず…
なんだ。「効率を上げよう」としてるんだよね。
ここから推察できるのは、
- 彼(or 彼女)は彼なりに熱心に業務改善に取り組もうとした
- しかし、なんらかの組織的硬直があり阻まれた
- それにより業務に対するやる気を失いつつある
ということじゃないかなあ…すくなくともぼくがマネージャーだったらそう判断するな。
これって「愛情がない」ってことじゃないよね。
むしろ「せっかく愛情を持ってもらえてるのに消えかけている」パターンだよね。
会社の中で業務改善の萌芽が見えているというのに、それへの答えが「愛情がない」でいいんだろうか。あまりにも悲しくないかな。
流行りことばで「ブラック企業」っていうことばがあるわけですよ。
そういう会社は研修で、
- 「お仕事楽しいです!」
- 「わたしは会社を愛しています!」
とか大声で連呼してるうちに洗脳されて、会社の無謬性を信じ込まされるんだな。
これは体育会系の牛丼屋だから(労基法上の問題を除けば)いいとしても、ぼくらのIT業界もおなじような感じにすべきなんだろうか。
業務が回ることの基底に愛情という感情を置いたら、あらゆるオペレーションは属人化の危険を常にはらむことになるんじゃないかな。
ぼくらがやるべきことは、単純オペレーションなら誰がやっても同じ結果が出る、愛情やムダな労力の要らないしくみづくりなんじゃないかな。優秀なプログラマは常に怠惰だというしね。
で、問題は、実際のところ、
- 愛情やムダな労力の要らない運用ルーチン化
- 開発・運営部隊がモチベーションを維持するしくみ
がきちんと働いているIT現場がまだまだ少ない、ってことなんだよね。つーか、末端のレベルでは大なり小なりみんなこうなんじゃないかと思う。組織の上のほうに行くと実態が見えないので、そもそも問題があるということに気が付かない人もいるのかもしれない。
どうやったらそういうしくみを作れるのか、どうやったらそういう現場を増やせるのか、っていうのは大きな課題だと思う。
先日宣伝してた勉強会は、まあ、そんな感じのテーマなんだよね。
来場者、おかげさまでいっぱいになっちゃったけど、参加した人がなにかを持ち帰れるような会になるといいなあ、と思います。