彼女はセルロイドのにおいがする
|彼女を抱きしめて、首回りや鎖骨のあたりにそっと顔の肌を重ねていると、セルロイド人形のようなにおいがする。
正確に言うと可塑性の高い合成樹脂でつくった人形の肌のようなにおいがするのだ。樹脂自体は無臭のはずだから、表面保護用の潤滑剤の香りかもしれない。
つきあい始めたころそんなことを言ったら、彼女はムードというものを理解しないから「どういうにおい? ねえ、どういうにおい?」としつこく聞くのだった。
こちらは悪い意味で言ってるんじゃないんだから、気にすることないのに。ただ彼女のにおいをおぼえるあいだがらになったのがうれしいという意味なのに。
なんだろうね。化粧品は本当に最低限しか使わないし、香水はむかし「ハウスオブローゼ」を作業後の臭い消し代わりに使ってたくらい。ぼくが最近香水のプレゼントで連続攻撃したけれど、変わった香りのものはない。食生活が不安定な人なのでダイエットの影響も疑ったが、ケトン臭じゃない。
でも、今でも彼女を抱きしめて気がつくとセルロイド人形のにおいがするのだ。
もしかしたら。彼女は本当は人形なのかもしれない。ぼくが幼稚園のころいっしょに遊んでた、女の子タイプの人形を思い出す。あの子、そのあとマジンガーZといっしょにどこかいっちゃったけど。もしかしたらぼくを見かねて現れたのかもしれない。
そう考えると頭の中からっぽな説明がつく。